現代物理化学3
1単位
- <担当教員>
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蛯名 邦禎
- <連絡先>
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office: 発達科学部 G308室 (office hour: 火曜日 15:00-18:00 - できれば,あらかじめ連絡してきてください.)
phone: 078-803-7754, e-mail: ebina@kobe-u.ac.jp
- <授業の概要>
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熱力学は,環境科学や,物質科学・生命科学・地球科学などを進める上で,必須の基礎の一つである.もともと物質の熱的な現象を扱うことを目指して構築された学問だが,その理論体系は非常に一般的で,極めて広い範囲の現象が,熱力学と同型の理論形式によって記述できる.実用面でも,化学反応や化学平衡の理解には熱力学は欠かせないし,生命現象の本質である不可逆性は,熱力学の第二法則と極めて深い関係がある.細胞内の諸過程の理解はもちろん,生態系における食物連鎖などのエネルギー流の理解にも熱力学が助けになる.地球環境問題は,太陽-地球-宇宙空間を含む地球システムの熱機関としての側面と強く関係している.また,地質の形成や岩石の生成の理解にも熱力学的な考察が欠かせない.
熱力学は,本来,物質が原子からできていることを前提とせず,巨視的な(第0法則も含め)4つの基本法則のもとに論理的・体系的に構築されたが,初学者には難解な面もある.しかし,20世紀になって明らかになった知見に基づき,物質が原子や分子からできていることを認め,それを前提とした統計的なアプローチを併用することによって,熱力学の基本法則やその応用の理解が容易になる.ただし,そのためにはある程度の数学的な取り扱いに習熟することも必要である.
この講義では,分子論的・統計力学的なアプローチも併用して熱力学の基本原理を理解し,環境科学やその他の自然科学の具体的な問題を扱うための基礎を身に付けることを目指す.
- <授業計画>
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- 気体の性質 (16章)
- ボルツマン因子と分配関数 (17章)
- 分配関数と理想気体 (18章)
- 熱力学第一法則 (19章)
- エントロピーと熱力学第二法則 (20章)
- エントロピーと熱力学第三法則 (21章)
- ヘルムホルツエネルギーとギブスエネルギー (22章)
- 数学的補足:数値計算法/偏微分/級数と極限/二項分布とスターリングの近似
- <テキスト>
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C.A. McQuarrie & J.D. Simon:『マッカーリ サイモン 物理化学 (下) ― 分子論的アプローチ』(東京化学同人, 2000), ISBN: 4-8079-0509-0 (16章〜22章)
[原書:Physical Chemistry: A Molecular Approach, University Science Books, 1997, ISBN: 0-935702-99-7]
- <参考書>
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- Halliday, Resnick, & Walker:『物理学の基礎 [2] 波・熱』(培風館, 2002) ISBN: 4-563-02256-X
- C. Kittel:『熱物理学 第2版』(丸善, 1983) ISBN:4-621-02727-1
- Moore & Moore:『環境理解のための基礎化学』(東京化学同人, 1980) ISBN: 4-8079-0163-X
- 白鳥 紀一 & 中山 正敏:『環境理解のための熱物理学』(朝倉書店, 1995) ISBN: 4-254-13066-X
- 宿谷 昌則:『エクセルギーと環境の理論―流れ・環境のデザインとは何か』(北斗出版, 2004) ISBN: 4-89474-034-6
- 清水 博:『生命を捉えなおす』(中公新書, 1990) ISBN: 4-14-190503-2
- Chang, R.:『化学・生命科学系のための物理化学』(東京化学同人, 2002) ISBN: 4-8079-0563-5
- Kuhn, H.; Försterling, H.D.:『物理化学(上・下)』(丸善, 2002) ISBN:4-621-04993-3, 4-621-04994-1
- Tinoco, I., et. al.:『バイオサイエンスのための物理化学』(東京化学同人, 2004) ISBN:4-8079-0582-1
- 小川 利紘:『大気の物理化学』(東京堂出版, 1991) ISBN: 4-490-20179-6
- 三島健司,ほか:『新しい物理化学―地球環境を守る基礎知識』(化学同人, 2004) ISBN: 4-7598-0924-4
- 足立泰久,岩田進午(編著):『土のコロイド現象―土・水環境の物理化学と工学的基礎』(学会出版センター, 2003) ISBN: 4-7622-3010-3
- 片岡 洋右,ほか:『分子動力学による物理化学実験』(三共出版, 2000) ISBN: 4-782-70424-0
- 高分子学会 編:『化学者のための数学』(東京化学同人, 1981) ISBN: 4-8079-0178-8
- <授業の形式>
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講義と演習の併用による.原則として毎回宿題を課す.
講義は総計約15時間(900分)行う.履修者はそれに加え,演習および宿題・予習・復習を含めて,総計45時間(2700分)以上の学修を行うことを標準とする.
- <評価の方法>
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数回のクイズと2回の試験,および宿題・レポートの併用によって行う.演習の状況も考慮する.試験は,標準的な学生が総計45時間程度の学修をしないと通らないレベルとする予定である.
- <先行科目>
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「物理学 B1-3」または「物理学 C1-4」「無機化学基礎」「有機化学基礎」「分析化学基礎」「基礎生物学」「基礎地学」等の自然科学基礎科目,「微分積分学」または「基礎解析 I」,「多変数の微分積分学」または「基礎解析 II」,「線形代数学 I,II」「数理統計学」「応用数学・同演習 I」等の数学科目を予め履修しておくことが望ましい.
- <関連科目>
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溶液反応,化学平衡と反応速度論,量子化学と分子構造などは,それぞれ後期に開講される「分析化学」,「現代物理化学特論 1」,「現代物理化学特論 2」で扱われる.
- <備考>
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