社会環境思想史II(民衆倫理思想史II)

2単位
<担当教員>
橋本 直人
<連絡先>
研究室 A604号室 [耐震工事に伴う移転先:A648号室]
E-mail: nhashimo@person.kobe-u.ac.jp
<授業の概要>
 我々の生きる近代という時代はどのような時代なのか。そしてその社会の中で生きる我々はどのような状況におかれているのか。こうした問題について考える上で、特にナチズムとホロコーストという極限的な事態を体験した20世紀ドイツの社会学・社会思想を無視することはできない。
 その中でも、この事態を近代社会とそこに生きる人間にとって本質的な問題と捉え、現代社会の中で生きる人間がどのような状況に置かれているかを批判的に考えた人々に、フランクフルト学派と呼ばれる思想家たちのグループがある。この講義では彼らの理論を世代順にたどり、彼らの思想における現代社会と主体の問題を検討したい。
<授業計画>
 1. はじめに――フランクフルト学派とはどんな人々か
 2. ナチズム・大衆社会・合理性  『啓蒙の弁証法』(1)
 3. オデュッセウス:啓蒙と主体の原点  『啓蒙の弁証法』(2)
 4. 啓蒙と道徳の空洞化  『啓蒙の弁証法』(3)
 5. 文化産業と大衆社会  『啓蒙の弁証法』(4)
 6. 「合理性vs.非合理性」のまやかし  『啓蒙の弁証法』(5)
 7. 理性と反ユダヤ主義  『啓蒙の弁証法』(6)
 8. intermission:「第1世代」の批判者としてのハーバマス
 9. 市民的公共性の理念  ハーバマス(1)
10. 公共性の構造転換  ハーバマス(2)
11. コミュニケーション的合理性  ハーバマス(3)
12. システムと生活世界 ハーバマス(4)
13. 生活世界の植民地化  ハーバマス(5)
   おわりに――近代批判の難しさ


※ [備考]で述べるように、受講者とコミュニケーションを図りながら講義を進めたいと考えている。
  そのため必要に応じて講義計画を変更する場合があるので注意されたい。
<テキスト>
原則として毎回資料を配布する。テキストは使用しない。
参考図書が必要な場合には適宜指示する。
<参考書>
テオドール・アドルノとマックス・ホルクハイマーについては以下の文献を参照。
  マーティン・ジェイ(木田元、村岡晋一訳)『アドルノ』岩波同時代ライブラリー
  細見和之『アドルノ  非同一性の哲学』(『現代思想の冒険者たち 15』)講談社
  細見和之『アドルノの場所』みすず書房
  藤野寛『アドルノ/ホルクハイマーの問題圏』勁草書房
  徳永恂(編)『アドルノ 批判のプリズム』平凡社

ユルゲン・ハーバマスについては以下の文献を参照。
  豊泉周治『ハーバーマスの社会理論』世界思想社
  吉田傑俊・尾関周二・渡辺憲正(編)『ハーバマスを読む』大月書店
  中岡成文『ハーバーマス』(『現代思想の冒険者たち 27』)講談社
  マイケル・ピュージ(山本啓訳)『ユルゲン・ハーバマス』岩波書店
  藤原保信(編)『ハーバーマスと現代』新評論

フランクフルト学派全体については以下を参照。
  徳永 恂(編)『フランクフルト学派再考』弘文堂
  徳永 恂『フランクフルト学派の展開』新曜社
  マーティン・ジェイ(荒川幾男訳)『弁証法的想像力』みすず書房
  スチュアート・ヒューズ(荒川幾男、生松敬三訳)『大変貌』みすず書房
<授業の形式>
講義形式とする。
<評価の方法>
期末レポートのみによって評価する。出席点は評価には加えない。
レポートの詳細については講義中に発表する。
特に掲示はしないので注意すること。
[備考]で述べていることから分かるように、Webサイトをコピーして提出、などという安直なレポートは確実に不可となるので覚悟すること。
<関連科目>
直接の連続性ではないが、この講義のテーマは「倫理学」(担当:橋本)で取り扱う主題といわば裏返しの関係にある。先行履修は必要条件ではないが、この講義のテーマに関心のある受講者は「倫理学」も履修することを薦めたい。
<備考>
 思想に関する講義のポイントは、個々の用語や知識ではなく、問題を考えるための思考の道筋を学ぶことにある。したがって、「たまにしか出席しない」ような受講者は講義内容を理解できないものと考えてほしい。
 加えて、思考の道筋を理解するためには、受身ではなく自ら考える姿勢が必要となる。そこで、各回の最後に講義内容への質問・コメントを提出してもらい、次の回で詳しく応答する、という形式で講義を進めたい。